Book of days in Berlin (ベルリン日記) vol.2


Book of days in Berlin (ベルリン日記) vol.2.「黄金の十月」(10/29 '2000)

ドイツの秋は短い。

 もうすっかり秋だなあ、と思ってから、秋もそろそろ終わりか.....とためいきをつくまで、すごく個人的な感覚でいえば、ほんの二週間ぐらいしかないかもしれない。でも、短いなりに、というか、短いゆえに、ドイツの秋は、キュッと「秋」がつまっているような気がする。

 まず美しい。日本の紅葉とはまたちがった風情があるのである。樹木の種類のせいか、紅葉というのはほとんどなくて、たいていが黄色一色に染まるからだろうけれど、良く晴れた日の午後などに森へいくと、あたり一面が金色に輝いていて、頭がぼおっとなってしまうぐらいだ。ドイツには、ゴールデネ・オクトーバー、文字どおり訳して「黄金の十月」という言葉があるが(正しい語源を知らないので、間違えていたらごめんなさい)、僕は、これこそドイツ版の秋をさしている思う。なにしろ、そのものずばりなのだから。秋のはじまりは、たいてい天気がぐずつくのだけれど、そのせいで空気がぐんと冷えて、そろそろストーブをつけようかと思うようになる頃、ぴかぴかの太陽が戻ってくる。これが、僕の経験上では、不思議と十月の中頃のことが多くて、それがなおさら「黄金の十月」を感じさせるのだろう。今年も「黄金の十月」は、例年通りにちゃんとあって、先週の初めからがそうだった。

 この時期になると、人々は、森へ出かける。紅葉狩りならず、さしずめ、黄金狩り!というところ(なにやらすごそうだけれど、たんなる散歩です、ご心配なく)ですね。うちの奥さんが最近、運動不足なので(妊婦というのは適度に体を動かさなければならないというのに、ごろごろばかりしているのだ)、ひっぱりだして、僕らも、先週の日曜日、近所の公園にこの「黄金狩り」に行ってきた。

 僕らが住んでいるのは、ベルリンのほぼ中心にあるティアガルテン地区である。区の名前を直訳すると「動物公園」となるのだけれど、この公園が、区の四分の一ぐらいを占めている。これは、もともとはプロイセン王家の狩り場だったもので、雑木や落葉樹がうっそうと生い茂る中にところどころ芝の緑地帯が顔をのぞかせているので、公園というより、森といったほうがいいかもしれない。

 ドイツは森の国といわれるが、こういう大きな森が、大都市のほぼ真ん中にあるのは、やはりめずらしい。これは、むしろドイツの歴史によるのだろう。つまりこの森は、西ベルリンのはずれにあって、ひとつの緩衝地帯の役割を担っていたため、開発を逃れたのではないのだろうか。この森を南北に分断するように、六月十七日通り(東ベルリンでの、最初の反政府運動が起きた日を記念して名づけられた)が三キロほどブランデンブルグ門までのびていて、その門を境にベルリンの壁があったのである。

 ドイツ育ちのうちの奥さんは、ケルンのギムナジュウムに通っていた頃、社会科研修旅行で西ベルリンにきて、ブランデンブルグ門の見学のため、この道をバスで通ったことがあるという。そのときは、この道路を通行する車はすべて、ノンストップの徐行運転が義務づけられていたそうだ。「走っていたときは、さすがにみんなびびっていたなあ」と奥さんは言う。東ベルリン側では、国境警備の兵士たちがずっとにらみをきかせていたのだから、やっぱり、十七、八の女の子たちにすれば怖かったろう、きっと、バスの中で息を殺してたのにちがいない。

 もちろん、壁のあいた今は、そんな緊張感はまったくない。
森の木立の中から聞えてくるのは、親子ずれの遠い笑い声や、落ち葉をふみしめながら歩く恋人たちのかすかな足音ぐらいである。ときどき、木の実がぽーんと落ちるのだけれど、それがびっくりするぐらい大きく響く。そして、空気はひんやり冷たく、しめった土と落ち葉がまざりあった匂いが立ち込める中で、あとはただ秋の光をあびて、森の樹々の葉が、目が眩むぐらいに黄金に輝いているだけなのだ。

 こういう静けさって、悪くないなと思う。

 でも、十年前のあの頃は、この森を、こんなのどかな気持ちで歩くなんて、できなかったにちがいない。僕らがにもうあたりまえに感じているこの平和も、考えてみれば、手に入れたのはまだつい最近のことなのだな......。
僕がめずらしくまじめにそんなことを思って歩いていると、奥さんがきゅうに声をあげた。
「ねえ、 今の人、シャンピニオン(マッシュルームのこと)持っていなかった?
けっこう大きいの。たぶん森の中でひろったんだよ、私たちもさがそう!」

 秋は、キノコ狩りのシーズンでもある。森に入って、ペッファリングピルツ(ジロル茸?)とか、マッシュルーム、シュタイピルツ(石茸)をつむ人々の姿をたまにみかける。でも、キノコって難しい。素人には見分けがなかなかつかないし、まちがってひろって、毒キノコだったりしたら笑い事じゃすまされないぜ。と、僕がいうと、奥さんは、
「ふうん...残念だなあ。おいしそうだったのに。」と、まだちょっとあきらめきれていない顔をした。

 そういえば、歩いたせいで、ちょっとおなかもすいてきた。
そう、秋は「食欲の秋」でもあるのだ。
というわけで、次回は、食べ物の話をしようかと思います。ではでは。
(10/29)

那須田さんの「ベルリン日記その2」です。
ドイツの食べ物といえば・・・ビールとソーセージぐらいしか思いつかないわたしは、
やっぱり「のんべぇ」でしょうか?
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